結論「フィリピンでは治療費用は最低500万円」

先に結論を書いておきたいと思います。

のむてつ所長のむてつ所長

フィリピンでは「疾病治療費用」「傷害治療費用」の補償額は、500万円あると安心。あと注意したいのは、医療費が高額になる医療搬送が必要となったとき(フィリピン⇒日本は約140万〜700万円)。重病時に医療搬送を必要とするかどうかで、必要な「救援者費用」の額が変わります。(下で詳しく説明します)。

このページの目的

海外旅行保険は、本当に1年で20万円以上もする「保険金支無制限」のものが必要なのでしょうか?短期の保険なら、本当に、クレジットカード付帯の保険だけでは不足するのでしょうか?

このページでは、フィリピンの医療費の価格を実際に見て、海外旅行保険をどれくらい掛けておく必要があるか、クレジットカード付帯保険で対応可能なのか、それとも不足するのか、などについて検証します。

※東京海上日動やAIU、JI傷害火災、HS損保などの保険会社が公表しているデータから、できるだけ客観的に見ていきたいと思います。(記事下に、すべての出典リンクを掲載)

まず大前提として

海外旅行保険を考えるときに、まず大前提として2点、頭に入れておいてください。

海外旅行保険の額を考えるときの大前提2つ

  1. 一番使う確率が高いのは「治療費用」。この額をメインに考えるべき。
  2. 高額医療費の原因のほとんどが医療搬送。なので「救援者費用」の額も重要

クレジットカードの宣伝でよくある「最大補償額●千万円!」というのは、実は利用確率の低い死亡補償の額だったりします。最大補償額が大きくても、あまり意味がありません。保険額を決めるのに重要なのは、「治療費用」と「救援者費用」です。覚えておいてくださいね。

判断基準

治療費用に関して↓

フィリピンで盲腸手術:約40万円

  • 日本より少し安いくらいの医療費(日本の10割負担額と比較)
  • 全体的に、日本と同じか少し安いくらいの額の医療費(日本の10割負担額と比較)
  • 集中治療室(ICU/CCU)の額: 1.4万円/日(*4*5)⇒20日間28万円

救援者費用に関して↓

医療搬送イメージ

  • 日本への医療搬送(定期便): 約140万円(*4*5)
  • 日本への医療搬送(チャーター便): 約700万円(*8)

フィリピンの医療費の価格&実際の事例

フィリピンの医療水準は、「マニラなら高い」と言えます。ただし、我々、外国人旅行者が利用するのは、私立病院となり、サービスは良いものの高額になるため、保険などの準備が必要です。

医療水準は、都市部と地方の格差が大きく、マニラ首都圏では近代的な設備を整えた私立総合病院で最先端の医療を受けることも可能ですが、地方の病院では医療施設の老朽化が進んでいるほか、衛生状態も悪く、安心して医療を受けられる水準には達していません

多くの島から成り立っているフィリピン。↑これを読むと、マニラ以外へ行く場合は、ヘリや飛行機での医療搬送の可能性があることを考え、「救援者費用」の項目を多めに準備しておいたほうが、よさそうですね。

1) 通院・入院の実態
…(省略)…都市部の富裕層向けにはアメリカ並みに設備の整った私立病院もあるが、公立病院では設備や人員の不足から、行き届いた治療は望めない。また事務の効率の悪さなどで、簡単な診察・治療でも非常に時間がかかることもある

↑このような感じなので、我々外国人旅行者としては、私立病院を利用する前提で、以下、価格のデータも、私立病院中心に掲載します。

ただし、フィリピンの私立病院は、少々独特であることも頭に入れておきましょう。

フィリピンの私立病院の特徴を、お医者さんが解説したブログがありましたので、↓箇条書きで、まとめてみました。

フィリピンの私立病院の特徴

  • 病院内にいる、医者、検査機関、薬局、それぞれが独立して営業
  • イメージとしては、個人の開業医が、病院や検査機関を使って治療するが、医者、検査機関、薬局、別々に使用料を支払う、という感じ
  • 医者は、病院の入院費や、薬の価格を知らないことが多い
  • 医者は、自由に診察料や手術の医術料を決定できる
  • 医者の知名度によって、診察料や医術料の相場がある
  • 医者と患者は、交渉して医術料を決める
  • 医者は、金持ちには高めの医術料をふっかけてくることも多い
  • 患者は、イヤなら自由に別の医者を選ぶ自由がある
  • 病院は、有名な医者、最新の設備、快適な病室を提供する「商売」
  • 病院も、金払いが良い患者には、快適な環境と融通の利くサービスを提供するが、お金を出さない患者には、ほとんどサービスをしないか、無視する

↑このような背景があり、医師や病院によって価格が違う、という現状のようです。この前提を頭に入れ、以下のデータを参考にしてみてください。

盲腸(虫垂炎)手術費用は総額約40万円

盲腸手術の費用データ(マニラ)

・15万円(手術代のみ。私立病院、2013年*4)
・13~16万円(手術代のみ。私立病院、2009年*5)
・39万円(病室代/看護費用/技術料など総費用。2008年*2)

のむてつ所長のむてつ所長

ちなみに日本の医療費は↓こんな感じ。
●盲腸手術:総額約60万円
●個室入院:一日3〜10万円
●ICU入院:一日8〜10万円
(出典2008年*2)

入院時の部屋代は個室1日1万円

病院の部屋代(1日あたり)
・私立病院個室5千〜1万円
・私立病院セミ個室2〜4千円
・私立病院一般病棟1〜3千円
・公立病院個室2〜6千円
・公立病院セミ個室8百〜4千円
・公立病院一般病棟5百〜2千円
(すべて2013年*4)

 ※薬代、X線代、検査費は含まず

集中治療室(ICU/CCU)の費用

集中治療室(ICU/CCU)の費用データ(1日の価格)
・6千〜1.4万円(私立病院、2013年*4)
・2千〜1万円(公立病院、2013年*4)

その他の治療費用のデータと事例

少し医者に診てもらうだけで、数万円はかかると思ったほうが良さそうです。

胃腸炎での外来初診料(2013年*4) 約3千円
救急車の基本料金(2008年*2) ①公営:無料
②民営:基本料1万円+1時間1,400円
入院保証金(2013年*4) 私立病院
7.4万円
アキレス腱断裂の手術費用(2013年*4) 20万円
コレラと診断され7日間入院(年不明*7) 11.5万円

高額な事例(医療搬送を含まないもの)

事故状況(年度・出典) 保険金支払額
頭痛で意識を失う。くも膜下出血の診断。34日間入院・手術。(2011年*1) 531万円
胸痛で受診。心筋梗塞の診断。22日間入院・手術。家族が駆けつける。(2009年*1) 407万円
風邪で受診。敗血症・心筋症と診断。14日間入院。家族が駆けつける。(2006年*1) 345万円
転倒。恥骨下枝・寛骨臼骨折と診断。74日間入院。家族が駆けつける。(2013年*1) 303万円

以上のデータを見て、フィリピンで治療費用は500万円あれば安心、という判断をしました。

しかし、上記は、あくまで医療搬送が絡まないデータ。医療搬送が必要になったときの費用を、↓次に見てみましょう。

フィリピンから日本へ移送費&実際の事例

医療搬送チャーター機イメージ

チャーター機での医療搬送は、1時間につき約80万円かかる

定期便か、チャーター便かで、かなり価格が変わります。

定期便利用の場合

合計 約100~140万円
(2013年*4、2009年*5)
・付き添い医師1名、看護師1名
・座席を6~10席確保し、ストレッチャー利用
・定期便のメリットは、安いこと。
・デメリットは断られることもあること(感染症の疑いや、繁忙期など)

チャーター便利用の場合

合計 約700万円
・チャーター費用 約640万円(2011年*8)
・その他費用 約60万円
(その他費用の内訳)付添い医師1日20~40万円、付添い看護師1日約10万円、医療機材4万円、現地病院〜空港の車移送3~5万円、宿泊費用(遠路の場合)1人1泊1.5万円(以上、2009年*5)、成田空港〜都内病院の車移送 10~25万円(2013年*9)

・チャーター便のメリットは断られないこと。デメリットは高額であること。

フィリピンから日本への医療搬送の事例

事故状況(年度・出典) 保険金支払額
事例なし

フィリピンへの旅行者が少ないわけではないはずなのに、日本への医療搬送の事例は、1件もありませんでした(ジェイアイとエイチ・エスの合計500件以上のデータ*1*7から)。

フィリピンで入院した人は、フィリピンで治療することを選択することが多いのかもしれません。

というのも、医療搬送というは、利用するかどうかは自分で選べるからです。「医療搬送は自分には不要」と割り切れば、海外旅行保険の保険料を節約できます。次に解説します。

医療搬送が必要かどうかの判断=大幅な節約

定期便で約100万~140万、チャーター便だと約700万もかかる日本への医療搬送。この医療搬送は必ず必要なものなのでしょうか?

保険代理店に尋ねてみたところ「もちろん医療搬送も、やるかどうかは自分の判断(家族判断)になります」との回答でした。では、医療搬送を希望する人というのは、どういう人で、どういう理由で希望するのでしょうか?

医療搬送はシニア層(65歳以上)が多い

ジェイアイ傷害火災が発表しているデータ(出典)によると、こんな事実が判明しています。

  • 300万円超の高額医療事故はシニア層(65歳以上)が約半数である
  • 2014年度 高額医療事故の上位5件のうち4件がシニア(9,335万円〜1,888万円)

また、ジェイアイ傷害火災とエイチ・エス損保が公開している500件以上の事故事例(*1*7)を一つ一つ調査したところ、↓このような事実もわかってきました。

  • 1000万円超の高額医療事故73件のうち61件(84%)が医療搬送。
  • 医療搬送を病気に限定すると、脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞など、シニアに起こりやすい病気が多い。

上で紹介したフィリピンでの高額事例4件の中でも、たしかに、くも膜下出血と心筋梗塞が1つずつありました。

このように見ていくと、シニア層(65歳以上)であるかどうかによって、医療搬送の可能性は、かなり違うことがわかると思います。65歳未満の場合は、医療搬送の可能性は、かなり低いと言えると思います。

また、逆の面から見ると、医療搬送は本人(家族)の希望で行うものであることから、「シニア層が医療搬送を希望することが多い」とも言えます。

医療搬送を希望する人は、どういう理由で希望するのか?

本人(もしくは家族)の希望で行う医療搬送。日本への医療搬送を希望する理由は、どういうものなのでしょうか?調べてみたところ、3つの理由に集約できました。

日本への医療搬送を希望する人の3つの理由
1. コミュニケーションの不安
2. 現地の医療水準が不安
3. 金銭的な不安

↑これら3つの不安をクリアできるなら、保険料の節約のために「医療搬送は不要」と割りきってよいことになりますね。

「医療搬送は不要」と割りきったとき、どうすべきか

では、今度は、重要な、「高額な医療搬送を断るなら、どう対応したらいいか」という問題を考えてみましょう。上記の3つの不安それぞれに対して考えてみます。

1. 「コミュニケーションの不安」への対策

フィリピンの場合は、マニラなら、日本語対応してくれる私立病院もあるので、問題ないでしょう。また、日本の海外旅行保険は通訳費用も負担してくれます。通訳がいれば、最低限の意思疎通は問題ないはず。日本と同レベルの「かゆいところに手が届く」ほどのサービスは望めないかもしれませんが、節約を重視した場合は、それは仕方ないと割り切るしかないでしょう。

2. 「現地の医療水準が不安」への対策

ここ最近、日本以外の国の医療水準は、急速に上がってきています。さらに言えば、ほとんどの国に、外国人や富裕層向けの、高額だが医療水準の高い「ビジネス病院」があるものです。海外旅行保険に加入している日本人旅行者は、ほとんど、こういう病院を利用することになります。ですので、現地の医療水準を、国全体や、その地域全体で考えてはいけません。

バンコクの医療関係者の方で、医療搬送にも携わり、医療搬送の難しさと高額さをよく知っている方が、ブログ(2013年の記事)中で、↓こう書かれています。

そろそろ海外で罹災した日本人患者は何でもかんでも日本の医療機関だけを妄信するのはやめたほうがいいのでは?と言わせていただきます。韓国、バンコク、シンガポール、マレーシアのビジネス病院のレベルは、日本の総合病院と医療レベルにおいて遜色はなくなっていますし、サービスレベルで行くと日本よりもはや上になっています。…(省略)…従いまして、もし海外で不幸にも病気や怪我をした場合は、現地でも十分対応できる医療機関があるかもしれないことを考て、そこからどこでどのように治療計画を立てるか柔軟に対応するのが肝要かと思います。

フィリピンも、マニラに限定して言えば、同じレベルに達していると言っていいと思います。もう一度、外務省のHPで書かれていたことを、載せておきます。↓

医療水準は、都市部と地方の格差が大きく、マニラ首都圏では近代的な設備を整えた私立総合病院で最先端の医療を受けることも可能です

ただし、フィリピンの地方からマニラへの医療搬送は、可能性としてあるので、その分の「救援者費用」準備しておくべきですね。

3. 「金銭的な不安」への対策

金銭的な不安というのは、具体的には、例えば、「集中治療室の費用が一日数十万円かかるので支払いが大変。医療搬送の費用を払ってでも、早く健康保険が使える日本で治療を受けたい」というような場合です。

フィリピンの場合は、集中治療室(ICU/CCU)利用が、1日1.4万円です。このレベルなら、20日間でも28万円なので、カード付帯保険のレベルでも、カバーできます。

また、先程のバンコクの医療関係者の方のブログには、↓こうも書かれています。

日本以外の多くの国では、医療機関ごとに医療レベルの差、病院費用の差が存在しますので、患者や家族がどのレベルの病院で治療を受けるかという選択をしなければならなくなることがあります。

つまり、簡単に言えば、「病院のレベルを下げれば医療費も下げられる」ということです。高級ホテルのような病院をやめて、少し簡素な病院にすれば、節約できる、ということです。

以上、3つの対策でした。

上の3つの対策を読んで、自分もできそうなら、「日本への医療搬送必要なし」と割り切ることができるでしょう。無理そうなら、医療搬送になった場合も計算に入れて「救援者費用」の項目を多めに準備するようにしてください。

まとめ

フィリピンへ行くときの海外旅行保険は、

  • 治療費用は、500万円あると安心。
  • 救援者費用は、地方からマニラへのチャーター便医療搬送を考えると最低400万円。日本へのチャーター便医療搬送も考えるなら700万円。

救援者費用は、こうすべき

チャーター便での日本への医療搬送を不要とすれば、救援者費用は400万円でいいでしょう。これは年会費無料クレジットカード2枚でカバーできる額です。日本への医療搬送を必要とした場合は、救援者費用は700万円以上必要。700万円だと保険付帯カード3~4枚必要になります。

救援者費用を700万円準備する場合、1,2週間〜1ヶ月くらいまでの長さの旅行でしたら、保険料もそう高くないので、有料保険に入ることが一番簡単です。有料の海外旅行保険も、各社かなり差があるので、上手に選ぶようにしてください。こちらで詳しく比較・分析しています。⇒海外旅行保険フリープラン(バラ掛け)比較ランキング

治療費用は、こうすべき

治療費用500万円という数字は、付帯する保険内容が良いクレジットカードなら、年会費無料カード3枚でカバーできる額です(治療費用補償など死亡補償以外は、カードを複数持っていると、限度額を上乗せできます)。ゴールドカードやプラチナカードでなら、2枚でカバーできるカードも少数ですがあります(参考:ゴールドカード比較表)。

ただし、注意点としては、「カード付帯保険は90日間が最長」ということです。3ヶ月以上の場合は、別の節約方法が必要になります。こちらの記事にまとめています。⇒半年〜1年など長期海外旅行保険の節約方法3つ

参考にさせていただいた文献リスト

保険会社の皆様、貴重なデータの公表、ありがとうございました!
*1 ジェイアイ傷害火災HP 海外での事故例(2002~2014年)
*2 ジェイアイ傷害火災HP 海外の医療事情(2008年のデータ)
*3 ジェイアイ傷害火災HP 海外の医療事情(2004年のデータ)
*4 東京海上日動 世界の医療と安全2014年
*5 東京海上日動 世界の医療と安全2010年
*6 AIU 海外での盲腸手術の総費用2008年(AIU海外留学保険総合案内サイト)
*7 エイチ・エス損保 旅行先でのトラブル事例
*8 チャーター機の料金は、アークEFI航空情報センター 航空機チャーター事業部(参考料金一覧)を参考に「1時間80万円×2(往復)×日本までの飛行時間(google mapより)」で計算。
*9 ④搬送費用 先端医療情報サイト ハロードクター
*10 FP花輪陽子のフィリピン移住日記|ザイ・オンライン

参考為替レート

現在の為替レート:1ペソ=[rate_Exc amount=”1″ from=”PHP” to=”JPY”]円 (←googleからの自動取得値)

2013年 1フィリピンペソ2.2〜2.5円くらい
2009年9月7日 1フィリピンペソ=1.91円
2008年 1フィリピンペソ=約2.6〜2.7円
2004年 1フィリピンペソ=約1.9円